ギャラリー島田「画廊通信」にミニ・エッセイ「〈コロナ〉のなかでイタリアに学ぶ」を書きました

三ノ宮のハンター坂を異人館地区にむけて上ってゆくと、ギャラリー島田という画廊があります。オーナーの島田誠さんは〈神戸の良心〉と私が敬愛する人で、阪神・淡路大震災以前からの知り合いです。かつては元町の書店・海文堂の2階で画廊を営んでおられました。若い芸術家を育て、市政に物申し、公益財団「神戸文化支援基金」を立ち上げて東日本大震災の復興に関わり、コロナウイルス危機の現在は、その資金を兵庫県下の文化拠点や文化活動に「緊急支援助成」すべく奮闘中です。政府の「緊急事態宣言」とはわけが違います。

「画廊通信」5月号が特集「パンデミックをめぐって ドイツ、イギリス、フランス、イタリア、そして日本」を組むに際して、イタリアを担当することになりました。重いテーマですが、今の気持ちを記しています。よろしければ下のリンクからご覧ください。



→「画廊通信」5月号 パンデミック特集「コロナのなかでイタリアに学ぶ」他


エウジェニア・S・P・リコッティ著『古代ローマの饗宴』武谷訳が講談社の電子書籍になりました

エウジェニア・サルツァ・プリーナ・リコッティ著、武谷なおみ訳『古代ローマの饗宴』が、電子書籍になりました。1991年に平凡社から出版され、翌年ピーコ・デッラ・ミランドラ翻訳賞(イタリア文化会館)を受賞したこの本は、2011年に講談社学術文庫に組み込まれました。そしてこの度、キンドル版として再登場です。

武谷ホームページの「フォトエッセイ」でも、歴史書として、文学書として、料理書としてユニークなこの本を、多くの写真で紹介しています。合わせてお楽しみください。

著者は5年前に他界されましたが、2020年のいま『古代ローマの饗宴』で「古代ローマの盛衰」を跡づけるのは意味のあることと思われます。質素な生の食材が尊ばれた時代から、過剰なおもてなしの時代へと移行するにつれ、永遠の都ローマに影がさした。30年まえ翻訳したときには気づきもしなかった歴史上の事実です。



記画像および、「FREE PREVIEW」をクリックしても詳細は表示されません。書籍の詳細をお知りになりたい場合は「BUY ON AMAZON」をクリックし紹介ページへ移動してください。

朝日カルチャーセンター・中之島で7月に「シチリアへの旅」を語ります

「シチリアへの旅 〈未来への記憶〉がやどる地中海の島をゆく」と題して講義をします。

日程:2020年7月23日 木曜 13:30~15:30

https://www.asahiculture.jp/course/nakanoshima/316821ee-96a4-b192-2faa-5e313f3fcca1

※お申込みを再開いたしました。詳しくは上記URLにてご案内いたします。

 
地中海の中心に位置するシチリアには、様々な民族の支配を受けた歴史と独自の文化が存在します。とりわけノルマン人が設立したシチリア王国は、ギリシア、ラテン、アラブの言語と文化が共存し、中世ヨーロッパで最も進んだ文化の発信地でした。
18世紀にはグランド・ツアーの客が行き交い、明治維新と同じ頃、イタリアの一部となってからは、世界文学史に名を残す作家が輩出します。ノーベル賞作家のピランデッロ、自ら「公爵」と名乗り、曾祖父をモデルにした小説と映画『山猫』で名高いランペドゥーザ、マフィアを初めて純文学に登場させたシャーシャなど、三千年の物と言葉がつみ重なる“人類の知恵の源泉”シチリアを紹介します。パレルモやアグリジェントなど、個性あふれる街も写真や映像でお楽しみ下さい。

 

朝日カルチャーセンター:2020/7/23イベント

日刊「レプブリカ」パレルモの取材で シャーシャを語った映像がテレビニュースで流れました

※再生すると15秒ほどCMが流れる場合があります。上のTakeya Naomi official をクリックしてください。

 

シャーシャへの関心がどうして生まれたか、実際に会ったことはあるのか、どんな作品を翻訳したかを問われて、さびついたイタリア語で答えました。イタリア建国以来、シチリアには驚くほど多く作家が生まれ、ヴェルガやピランデッロを敬愛しているが、わたしにとって導きの糸はつねにシャーシャであったこと。実際に会ったシャーシャは雄弁なイタリア人とちがい寡黙な人で、こちらがショックをうけるほどゆっくりと、一語一語、かみしめるように語る作家であったこと。短篇をひとつ訳したけれど業績がないので印税が払えない、私家版の冊子として周囲に配ってもいいかとたずねる30代のわたしに、すぐにいいよと承諾してくれたこと。代表作『人それぞれに』と『単純な話』を1冊にまとめ、『ちいさなマフィアの話』として白水社から出版できたのは、彼の死から5年たって後のことでした。

アグリジェントの図書館で作家マッテオ・コッルーラの講演を聞きました。「シャーシャ不在の30年 記憶には未来がある」

 

アグリジェント出身のコッルーラ氏は有力紙「コリエーレ・デッラ・セーラ」の文芸記者を長年つとめ、シャーシャの伝記『レガルペトラのマエストロ』の著者でもあります。事実上シャーシャの処女作と見なされる『レガルペトラ教区の人々』(1956年)は彼が小学校の先生(マエストロ)をしていた頃の「学級日誌」と町の年代記で、レガルペトラは貧しい故郷ラカルムートのメタファーであると、後に自ら語っています。

ルッケジアーナ図書館は、18世紀のアグリジェントの司教アンドレア・ルッケージ・パッリの個人図書館で、神学、哲学、歴史、人文主義に関わる45,000冊の蔵書が収められていました。ノーベル賞作家ピランデッロが大学生であったころ、古いアラブの写本を探しに行ったこの図書館は、ネズミとゴキブリ以外に訪問者がなく、「破滅の道」を辿っていたと1889年の手紙に記されています。幸い20世紀後半に修復がなされ、この日は主催者Don Angelo Chiulla 神父と市の協力で、異端の作家シャーシャを偲ぶ夕べとなりました。聴衆のなかに弁護士や建築家、軍警察や県警察の関係者がまじっていたのも、シチリアならではの光景です。

シャーシャが愛した地元の新聞「すべてにかかわらず」の仲間たちと20年ぶりに再会しました

1980年に2人の若者が創刊した「すべてにかかわらず」は町の情報と文化の新聞です。マフィア犯罪が多発したその時期、アメリカに移民したシチリア人もこの新聞を読んでいることを知り、わたしも定期講読していました。昨年の春、町の有志がシャーシャの2人の叔母さんが住んでいた家を購入し、当時の仲間と私設「シャーシャの《家》」を開設しました。希望者は連絡すれば本の閲覧が可能です。

帰国後に家でさがすと、シャーシャを悼む1989年11月の「すべてにかかわらず」が見つかりました。写真の下に彼の言葉が記されています。「わたしは愛する町の生活の何かを物語ろうとこころみてきた。だから  ここの生活が、自由と正義、すなわち 理性からどれほどかけ離れているかを感じとってもらいたい」

レオナルド・シャーシャ没後30周年の追悼行事に参列するためシチリアに行きました

『真昼のふくろう』 『人それぞれに』『権力の朝』『マヨラナの失踪』『モーロ事件』『単純な話』など、 日本でも翻訳されたシャーシャの小説は、人口1万人たらずのこんな町で生まれました。

1921年生まれのシャーシャは学校や職場、政党や警察、宗教界で起きる町の出来事をシチリアからイタリアへ、イタリアから世界へと拡大して、社会のあらゆる組織に潜む、見ざる聞かざる言わざるのマフィア的体質を暴き出します。闇にいどむ国語教師や、老齢の眼科医、破戒僧など、孤高の登場人物を対置して。

「シャーシャ没後30年 『脈略』を今読もう:政治と司法が真実を葬るあのミステリー小説を」 。ポスターに記された1971年発表の『脈略』(邦題『権力の朝』)は、キリスト教民主党と共産党の「歴史的妥協」を厳しく批判する作品です。右上の画はシチリア出身のレナート・グットゥーゾ作「トリアッティの葬儀」。

新しいシャーシャ『全集』3巻Adelphi版が、没後30周年を記念して7年がかりで完成しました。編者で 文献学者のPaolo Squillacioti氏とAntonio Di Grado「シャーシャ財団」学術部長が最前列にならんでいます。

ラカルムート町長とシャーシャの次女Anna Maria Catalano Sciasciaさん(前列中央)

本の表紙のような墓石には「おぼえていよう、この惑星を」の文字。右の墓には小学校の先生をしながら 若い時代のレオナルド(愛称ナナ)を支えたマリア・アンドロニコ・シャーシャ夫人が眠っています。

Con la cara amica Naomi Takeya, dal Giappone a Racalmuto.

Antonio Di Gradoさんの投稿 2019年11月19日火曜日

学会の責任者Antonio Di Gradoのフェイスブックに、日本から来た友人Naomi Takeyaが紹介され、愉快な「いいね」が記されていました。「なおみが ラカルムートの住人で、あんたが日本人(もちろん天皇)みたい!」  アントニオはカターニア大学名誉教授で、生前にシャーシャ自身が「レオナルド・シャーシャ財団」 学術部門の部長に任命したイタリア文学者です。「財団はきみの〈家〉だよ」と、迎えてくれました。

「大竹昭子写真展ー須賀敦子のいた場所」(神戸)でトークショーをするお知らせ

9月7日(土)~12日(木)
神戸・元町のギャラリー島田で開かれる

「大竹昭子写真展 須賀敦子のいた場所」を記念して、

作家で写真家の大竹さんと、初日にトークショーを行います。

大竹昭子著『須賀敦子の旅路』(文春文庫)は、作家の須賀さんとふかい
親交のあった著者が、ミラノ、ヴェネツィア、ローマをくまなく歩き、
須賀文学の核をなす場所や人や事物を目で見て、確かめ、思考をかさね、
没後20年たった今、珠玉の須賀ワールドへとふたたび読者を誘います。

武谷は、作家になられる前の須賀さんの想い出を、イタリア文学研究の後輩として、
また同郷の友人として語ります。詳細は、下をクリックしてください。

http://gallery-shimada.com/?p=6334

 
トークショーに先がけ「ギャラリー島田」通信に「須賀敦子さんと対話した日々」を
記しました。蝙蝠マークの島田さん、すてきな紹介文をありがとう。

 

(ギャラリー島田」通信 2019.08/09 「美の散歩道 86」)
(「ギャラリー島田」通信、2019.08/09 「美の散歩道 86」)