実験考古学と人は呼ぶ 『古代ローマの饗宴』の著者ニーナ 4

1991年の夏、日本語版『古代ローマの饗宴』(平凡社)は完成しました。ふつうの単行本より大きく、全体で456ページにもおよぶこの書物は6000円と値が張りましたが、刊行直後から考古学者や歴史家の興味をひきました。

( 『古代ローマの饗宴』 平凡社、1991年)

 

その秋に再来日したニーナは、上智大学における地中海学会の研究会をかわきりに、大阪文化財センターと奈良文化財研究所で講演をおこない、朝日カルチャーセンター大阪では、一般向きに講義しました。

 

公の仕事が一段落したあと、著者から日本の友人たちへの「びっくりプレゼント」がありました。「私の本」でなく「私たちの本」になった『古代ローマの饗宴』を祝うために、試食会を開くことを、ニーナは望んでいたのです。「研究会の名目でやろう。日本にない食材には代用品をあてるから心配無用。場所はあなたにまかせるわ」

 

わが家から歩いて行ける神戸の小さなレストラン「モーブ」のママが本を読んで興味津々。定休日に立食形式で、試食会に協力してくれることになりました。収容人数は40名。ただし主な材料はこちらで調達し、ソースなどの下準備も前日、家ですませておくという条件つきです。面倒くさがりな私に代わり、文化財保存科学が専門で、料理大好き人間の夫が実家の茶の間で胡座をかき、足の間にすり鉢をはさんで夜中まで、ニーナの指導でチーズをこねました。

 

「はた迷惑なイベント」と思われたにちがいないのは、レストランの料理長です。休み返上のうえに、奇妙な古代料理のレシピを押しつけられたのですから。試食会当日の朝、彼とニーナの間には、相撲の力士のにらみ合いのような緊張した空気が流れました。料理長は自分の命ともいえる包丁を、見知らぬ外国人に渡すのを拒みました。

でもお昼を過ぎたころ、2人の間に信頼関係が生まれたのを、通訳の私は直感しました。質問と答えをくりかえし、ニーナは調理場に招き入れられて、身ぶり手ぶりで説明しました。

その成果は、秘伝の料理の撮影を許可された「毎日新聞」の記事が伝えるとおりです。

シーザー気分で舌つづみ

(『シーザー気分で舌つづみ』 「毎日新聞」、1991年10月31日)

 

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